日本と海外で、建物の省エネは何を評価しているか
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日本の新築は、設計仕様から計算した一次エネルギーで基準に合うかを見ます。オーストラリアは1年分の実測に星評価を付け、条件を満たすオフィスの広告に出します。ドイツは新築に、消費量の証明書を使いません。違いを、制度の条文と公的な説明から整理します。
この記事の要点
- 2025年4月以降に着工する原則すべての新築は、設計仕様から計算した一次エネルギーで基準を見ます。東京都が公表するのは、原油換算1,500kL以上の約1,200事業所の排出実績です
- オーストラリアは12か月の実測を、気候を考慮した星評価で示します。貸室面積1,000㎡以上などの条件を満たすオフィスは、売却・賃貸・転貸の広告に0から6の星を出します。使用開始から2年未満は対象外です
- ドイツは新築に消費量の証明書を認めません。既存の消費量証明書は、連続した36か月を使い、暖房は天候で補正します
- 実測の等級を掲示する義務があるのは、イングランドとウェールズの、人が訪れる公共の建物です。民間にその義務はありません
- 2026年7月31日に公布された日本の改正法が届け出を求めるのは、設計段階のライフサイクル炭素です。運用後の実績に星評価を付ける制度ではありません
日本は、設計の計算と、大規模事業所の実績公表が分かれている
2025年4月1日以降に着工する原則すべての新築・増改築は、省エネ基準への適合が義務です。床面積10㎡以下などは対象外です。非住宅で見るのは、実際の設計仕様から算定した設計一次エネルギー消費量が、基準一次エネルギー消費量を超えないことです。12か月のメーター実績ではありません。国土交通省 報道発表(2024年4月16日) 建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令
東京都は2010年度から、大規模事業所に温室効果ガスの総量削減を義務づけています。対象は、年間のエネルギー使用量が原油換算1,500kL以上の、オフィスや商業施設など約1,200事業所です。毎年度のCO2排出量や、床面積当たりのエネルギー使用量を公表し、都内の平均や似た事業所と比べられるようにしています。都は、投資家や金融機関、取引先から選ばれることを狙いとしています。東京都環境局、キャップ&トレード制度の説明資料 東京都環境局「キャップ&トレード制度・ダッシュボード」
これは、建物を売りに出すときの星評価ではありません。義務の対象は大規模事業所に限られ、公表されるのはその事業所の排出と使い方を含む実績です。
続いた例は、実測に星評価を付け、取引の広告に出させた
オーストラリアのNABERS Energyは、実際のエネルギーデータで、同じ種類の建物と比べます。ダーウィンのように冷房が多い地域と、メルボルンでは前提が違うため、その差を評価に織り込みます。オフィスでは、中央の冷暖房・昇降機・ロビー照明などを見る評価、テナントの区画を見る評価、建物全体を見る評価を分けます。テナントの評価では、面積に加え、在室時間やコンピュータの台数も見ます。評価の有効期間は12か月です。NABERS Energy NABERSのオフィス評価 What is NABERS?
連邦の開示制度では、貸室面積1,000㎡以上を売り、貸し、転貸するとき、原則として登録した証明書が要ります。建物のオフィス面積が75%未満、区分所有、使用開始の証明書から2年未満の建物は、対象外です。広告には、0から6のNABERS Energyの星を、本文と同じ大きさで出します。実測が12か月分そろう前の新築に、実績の星評価を求めていません。開示の対象になる建物 新築の扱い 広告への表示
NABERSは、利用者が10年でエネルギー使用を平均30〜40%減らした、と説明しています。これは制度の運営者による説明です。What is NABERS?
消費量だけでは建物を比べない、という線を引いた例がある
ドイツの建物エネルギー法は、連邦政府の説明では、建物近代化法(GModG)が新しい名称です。新築のエネルギー証明書は、完成した建物の性能から計算する需要証明書だけです。消費の記録がないことも理由に、消費量の証明書は認められません。一定の改修で建物全体を計算した場合も、同じです。GModG §80 連邦政府のFAQ 18
既存建物の売却や賃貸では、需要証明書と消費量証明書を選べる場合があります。消費量証明書には条件があります。直近の精算期を含む連続した36か月以上の実績を使い、暖房は天候で補正し、長い空室も計算で考慮します。データが足りなければ出せません。住宅が5戸未満で、1977年11月1日より前に建築を申請し、当時の断熱基準を満たしていない場合も、消費量証明書は使えません。GModG §82
消費量は、住み方や天気で動きます。ドイツは、その数字を補正したうえで、新築や一部の古い小規模住宅では、建物そのものの性能としては使わない、と分けています。
英国の実測等級は、公共の建物の掲示にとどまる
イングランドとウェールズのDisplay Energy Certificate(DEC)は、過去12か月のメーター実績から年間のCO2を出し、同じ種類の建物の標準と比べます。標準と同じなら100です。AからGで示し、人が見える場所に掲示します。対象は、公共機関が使い、床面積が250㎡を超え、公衆がよく訪れる建物です。1,000㎡を超える建物のDECは1年、250㎡超1,000㎡以下は10年有効です。英国政府 DECの手引き(イングランドとウェールズ)
民間の組織にDECの義務はありません。希望すれば任意で取れます。建物を売ったり貸したりするときは、別のエネルギー性能証明書が必要になることがあります。スコットランドの公共建築は、DECではなく、その証明書の方です。GOV.UK「Check a public building’s Display Energy Certificate」
光熱費の得が分かれるときは、評価の前に契約の問題がある
オーナーが改修費を払い、光熱費の低減はテナントに入る、という分かれ方は、星評価だけでは解消しません。国土交通省は、省エネや執務環境について契約や覚書で取り決め、双方が光熱費削減などの恩恵を受ける取り組みを、グリーンリースと呼んでいます。国土交通省「グリーンリース」
オーストラリアが取引の場に置いたのは、まず開示です。貸す前に、共用設備などの実測の星評価を広告へ出します。グリーンリースは、誰が工事費を負担し、減った光熱費をどう分けるかを、契約に書く手段です。
日本で次に始まる届出は、運用後の星評価ではない
2026年7月31日、建築物のライフサイクル全体の炭素を評価する改正法が公布されました(令和8年法律第75号)。一定規模以上の特定用途を建築するときは、設計段階で算定した炭素排出量の評価結果を、国へ届け出ます。用途と規模の具体は政令で定めます。国交省の概要資料は、5,000㎡以上の事務所をその対象として示しています。届出を含む評価制度は、一部の規定を除き、公布から2年以内に政令で定める日から施行されます。参議院 議案審議情報 改正建築物省エネ法の概要
この届出が見るのは、資材の製造から解体までを通した、設計段階の算定です。入居後の12か月の実績を、天候や在室で補正し、星の数で表す仕組みではありません。登録機関の認証を受けた場合は、環境性能の標章を建物や広告に付けられます。付けるかどうかは任意です。
ここまでの制度に共通するのは、メーターの合計を、そのまま建物の優劣にしていないことです。
- 誰のエネルギーか。中央の冷暖房や昇降機か、テナントの使い方を含む全体かで、星評価の意味が変わります。オーストラリアは、評価の種類で分けています。
- 何と比べるか。天候、面積、建物の種類、空室が揃っているかを見ます。ドイツの消費量証明書は、36か月と暖房の天候補正を条文に書いています。
- いつの数字か。オーストラリアの評価と、英国の大規模な公共建築のDECは、有効期間が12か月です。新築の計算値や、竣工直後の建物とは別の数字です。
- 誰が得をするか。光熱費を払わないオーナーに投資を求めるなら、グリーンリースのように、低減分の分け方を契約に書く必要があります。